大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋地方裁判所 昭和62年(ワ)178号 判決

原告 竹内次郎

右訴訟代理人弁護士 太田博之

右同 後藤昭樹

右同 立岡亘

被告 株式会社井戸建設

右代表者代表取締役 井戸健治

右訴訟代理人弁護士 二村満

主文

一、原告の請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

1. 名古屋地方裁判所昭和六一年(リ)第四七九号配当事件につき、同裁判所が作成した別紙配当表中、原告の配当金六二万九四三五円とあるを金五九九万一一六五円に変更し、被告の配当金五三六万一七三〇円とあるを〇とする。

2. 訴訟費用は被告の負担とする。

二、請求の趣旨に対する答弁

主文同旨の判決。

第二、当事者の主張

一、請求の原因

1. 原告は、株式会社中京同和畜産(旧商号株式会社高建。以下「訴外会社」という。)に対し、五七〇万円及びこれに対する損害金三〇万円の債権を有する。

2. 原告は、昭和六〇年一一月二〇日、名古屋地方裁判所に対し、訴外会社を債務者、石川修二(以下「訴外人」という。)を第三債務者として、原告の前項の債権を被保全権利とし訴外会社が訴外人に対し有する債権の仮差押の申請をなし、同日仮差押決定を得た。

3. 訴外人は、右仮差押命令の送達を同年同月二一日に受け、同年一二月二五日午後二時名古屋法務局に対し六〇〇万円を民事執行法一七八条三、五項、同法一五六条一項に基づき供託した。

4. 被告は、昭和六一年一一月六日、名古屋地方裁判所に対して、訴外会社を債務者、国を第三債務者として、被告の訴外会社に対する債権五一一〇万円を被保全権利とし訴外会社が国に対し有する供託金還付請求権の仮差押の申請をなし、同日仮差押決定を得た。

5. 原告は、名古屋地方裁判所から、1項の債権につき、執行力ある判決正本に基づく債権差押命令を得たところ、同裁判所は別紙の通りの配当表(以下「本件配当表」という。)を作成した。

6.(一)(1) しかし、民事執行法一六五条によれば、配当を受けることのできる債権者は、第三債務者が同法一五六条一項又は二項による供託をするまでに差押、仮差押の執行又は配当要求をした者に限られる。

(2) 被告が仮差押の執行をしたのは、前記のように、第三債務者たる訴外人が供託した後であり、被告は本件の配当を受けることができない。

(二) また、仮差押を理由とする第三債務者の供託は、執行供託であることにつき争いがなく、従って、債務者はその還付を受けることができず、第三債務者は取戻を請求することもできない。仮差押執行が取消し、無効にでもならない限り債務者が還付請求権を取得する余地がないのであるからこれに対する仮差押はそれ自体効力がない。

(三) 従って、被告に対し、五一一〇万円の債権につき、五三六万一七三〇円の配当をなすこととした右配当表には過誤がある。

7. よって、原告は、昭和六二年一月一九日の配当期日において異議の申出をなし、本件を提起した。

二、請求の原因に対する認否

1. 請求の原因1ないし5及び7を認める。

2.(一) 同6は争う。

(二) 民事執行法一六五条は、仮差押の執行を理由として債務額が供託された場合には適用がない。すなわち、仮差押の執行中の供託は、配当手続を予定していない段階におけるものであるから、供託時にはまだ執行加入の終期が到来せず、その後仮差押債権者または他の債権者が本執行による差押をしたときに初めて配当加入の終期が到来する。

(三) 原告の本執行による差押までに仮差押をなしている本件においては、被告は配当を受ける資格を有する。

三、抗弁

被告は、訴外会社に対し、昭和六二年一月一八日現在、元本五一一一万円、損害金二七〇万二〇四五円、合計五三八一万二〇四五円の債権を有する。

四、抗弁に対する認否

抗弁を認める。

理由

一、請求の原因1ないし5及び7並びに抗弁は当事者間に争いがない。

二、1. 本件のように、仮差押えの執行のみを理由として供託がなされた場合、仮差押えの執行中の供託は、まだ配当手続を予定していない段階における供託である(民事執行法一七八条は配当に関する同法一六五、一六六条を準用していない。)から、供託時にはまだ執行加入の終期が到来しないものと解され、仮差押債権者が本執行による差押をしたときに初めて配当加入の終期が到来するものと解すべきである。

2. また、仮差押を理由とする第三債務者の供託は、執行供託の性質と共に弁済供託の性質をも有すると解され、債務者が右供託金の還付請求権を有している(ただし、仮差押の効力が及んでいる。)から、その差押の余地はある。

三、以上により、名古屋地方裁判所の作成した本件配当表には原告が主張するような過誤がなく、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 福井欣也)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例